精神科が抱える現状を踏まえ、賢く付きあう 「24時間仕事バカ!」のためのメンタルメンテナンス第2回

わかっているようで実はわかっていない自身の心の健康具合。そこで精神科の名医があなたのメンタルをチェック。心を整えればアンチエイジングに効くのはもちろん、仕事のパフォーマンスも上がること間違いなし。

信頼するホームドクターが自分にはいるという安心感

 精神科の診療は、患者さんの話にじっくり耳を傾けるところから始まります。患者さんがどんな症状や不安を抱えているのかを聞く。そうしたカウンセリングこそ精神科医がしなければならないこと。ところが、現実には勇気を振り絞って精神科を訪れても、驚くほど混んでいて「話をまともに聞いてもらえなかった」と不満を抱える患者さんが大勢いる。初診なのにろくに話も聞いてくれず「眠れない。じゃ、薬を出しておきます」。極端な例ではそういう場合もあるわけです。

 こうなってしまう理由の一つには、精神科を受診する患者数が飛躍的に増えていることが挙げられます。例えば鬱病。20年ぐらい前の精神科の教科書では日本人50人にひとりとされていましたが、今、厚労省は15人にひとりと言っている。それから医療制度の問題も。現在の保険診療では、より多くの患者さんを診ないと経営が成り立たない現実があって、話を聞きたいけれど聞けない医者のジレンマがある。さらに、これは精神科に限ったことではありませんが、本来あるべき病院のヒエラルキーが崩れてしまっている。誰もが最初から大病院を受診する傾向が強くなっているんですね。私はホームドクター、つまり身近にかかりつけの医師を持つことが大切だと思います。信頼できるホームドクターがいれば、メンタルも含めて何かあった時にまず相談する。そこで初期のジャッジを受け、より専門的な治療が必要と判断されたら総合病院、さらには大病院と臨機応変に対応してもらう。そうすれば、迅速かつ適切な医療が提供できるはずです。ひと昔前の日本はそうだったんですけどね。

 自分に合うドクターを見つけるのは難しいかもしれませんが、精神科の場合、初診でコミュニケーションを取ってみてウマが合う、合わないは非常に重要。インターネット等の書きこみはすべてが正しいと思いませんが、そうした個々の感想に頼るのも一つの手。ともかく、重要なのはジレンマのある医者とフラストレーションを抱えた患者さんとが、どう折り合いをつけて信頼関係を築いていくか。その認識が、自分にふさわしい医者を見つけるためには必要です。

今月のクリニック No.2 仕事中でもお酒のことが頭から離れないのですが……

 夕方、アルコールの血中濃度が下がってくるとソワソワしてきて飲めば落ちつく。これはアルコール依存症。お酒との付きあい方にはまったく飲めない下戸、摂取をコントロールできる人、飲んだら止められず依存症に陥る人、この3タイプしかありません。血液型よりも少ないですよね。つまり、それだけ身近にある精神疾患の一つがアルコール依存症なのです。

 アルコール依存症で大事な点は、「アルコールは身体依存を引き起こす危険なドラッグである」という認識を持つことです。どこからがそうで、どこからがそうでないのか診断は難しいのですが、結論としてはその人の言動がすべて。飲酒量ではありません。会社に行かなくなる、家で暴れるなど、社会人としての常識から逸脱した行動をお酒が原因で起こすようになった場合に、我々はアルコール依存症と診断します。ただし、患者さんは必ず否認から入ります。自分で「治療をお願いします」と来るケースは九分九厘なくて、アルコール依存症の人は絶対に「そんなに飲んでいない」と言います。家族や周りの人に無理矢理病院に連れてこられる場合がほとんど。だからその分、厄介な疾患といえます。

 これまで大丈夫だったからといって、今後も大丈夫とは言いきれないのもアルコール依存症の怖いところです。ストレス解消などに対して、強くお酒に救いを求めるようになったら要注意かもしれません。要するに、依存症になる可能性は誰にでも同じようにあるのです。眠れないからとお酒を飲むのも、気をつけたほうがいい。よくナイトキャップといいますが、それはお猪口一杯まで。肝臓が24時間で代謝できる量は個人差もありますが、日本酒で1合、ビールなら大瓶1本、ワインはグラスで2杯ほど。これを目安に1日の飲酒量を考えてみてください。“休肝日”は必要です。

 アルコール依存症に治療薬はありません。ただ「一滴も飲まない」だけ。入院して強制的に、あるいは禁酒のための自助グループに参加して自分を律し、断酒を続けるしかないのです。私自身、お酒は好きですし、飲めない人は人生の半分損しているとさえ思っている。リラックスできれば翌日の仕事のやる気にもつながるし、ワインのポリフェノールは動脈硬化の予防になると言われています。そんなお酒のメリットをずっと享受するためにも、飲み方と量を考えて上手に付き合いましょう。

  • case2 アルコール依存症(alcohol dependence)
    薬物による作用を繰り返し経験したいために、あるいは、それを使わないと不快になるために、さらに続けて使用したくなる状態を薬物依存というが、アルコール依存症はその薬物依存の一種。アルコール依存症になると、日常的にアルコールを摂取したいという強い欲求や強迫観念にかられ(精神依存)、耐性ができるため摂取量も増え続け、摂取を止めると手の震えや一過性の幻覚などを引き起こす(身体依存)こともある。
Kazuhiro Kobayashi
医療法人社団 城西クリニック院長。精神保健指定医。1962年生まれ。北里大学医学部卒業後、同大学病院でヘルスメンタルケア中心の医療に従事。身体疾患と精神面との関わりについて皮膚科、形成外科、婦人科の各専門医と研究を重ね、城西クリニックを開院。精神科医として心身両面からの頭髪治療に力を注ぐ。日本臨床精神神経薬理学会専門医、NPO法人F.M.L.理事。月に5,000人以上が来院する小林一広医師のクリニック詳細はこちら http://www.josaiclinic.com/

Text=田代いたる Photograph=太田隆生 Illustration=岸 潤一


*本記事の内容は12年2月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい