ビジネスマン池田順一×ベアフット・ランニング あの人はどうしてそんなに若いのか?

 相変わらずのランニングブーム。しかし、がむしゃらに走ってケガをする人が後を絶たない。ケガの発生を激減させるという、人間本来の走り方とは?

真逆の発想に耳を傾けろ!野性を取り戻した男は美しい
池田順一×ベアフット・ランニング age49

 足元には地下足袋のような奇妙なシューズ。ソールには余計なクッションがない。シンクーの池田順一さんは昨夏出会ったビブラム製の「ファイブフィンガーズ」を履いて軽快に走る。
 走り始めたのは十数年前。最初のうちはトレーニングなど特にしていなかったが、サロマ湖100kmウルトラマラソンに挑戦し、55kmでリタイアしてからトレーニングを開始した。しかし、悲しいことに左膝の半月板を痛めてしまった。
 手術をしても完治はしなかった。それでも走り続けるのが「ランナーの性」なのだろうが、10~20kmを走ると翌日は膝が腫れた。週末に走って、水曜日には膝に溜まった水を抜く。
 そんな時、「ベアフット・ランニング」の講習会に参加したことでランニング人生が変わった。裸足、もしくは裸足感覚のシューズで走るベアフット・ランニングのことは、ベストセラー『BORN TO RUN』(クリストファー・マクドゥーガル著)を読んで知っていた。
 講習会で教わったことは単純。「音を立てず、柔らかい着地を心がけましょう」「地面に踵からつかないようにしましょう」。裸足で5kmほど走らされた。踵から着地すると、衝撃からくる痛みでまともに走れない。つま先からそっと着地するようになった。
 帰宅途中に早速、裸足系シューズ「ファイブフィンガーズ」を購入。最初は足の甲が痛んだが、走り方をあれこれ考えながら3週間ほど走ってみるとシューズに慣れ、皇居の周回を4周走れるようになった。驚いたことに、膝はまったく痛まない。
 日本ベアフット・ランニング協会の吉野剛・代表理事によると、「裸足系シューズで正しく走ればランニングによる故障は激減する」という。もちろん裸足系シューズで走るには走り方を変えなくてはならない。「まずは着地のイメージを変えることから始めてほしい」と吉野さんは話す。ドーンと「落ちる」のではなく、ふわっと「降りる」ようにする。
 この感覚は後ろ向きに走ると、よくわかる。重心が先に移動し、つま先から柔らかい着地ができる。それを前向きでやればいいのだ。必然的に踵からではなく、つま先からの着地に変わる。
 実はこれこそが人間の身体の機能を生かす走り方であって、「本来、こういうことは教わらなくても無意識にできるはずなんです」と吉野さんは話す。
 走って獲物を追いかけていた太古の時代、人は皆ベアフット・ランニングをしていた。ところがクッション性の高いシューズを履くようになった現代人は走りが変わり、人間が備えた機能を生かせなくなっている。
 ランナーが裸足、もしくは裸足系のシューズで走ることは、「走りを変える」作業ではなく、「走りを原点に戻す」作業と言ったほうが正しいのだろう。原点に帰るために走りを学び直さなければならないというのが現代の皮肉。太古、人が走っていたであろうフォームを思い出すため、いわば原始に帰るため、現代人は講習会で学ぶ。
 ファイブフィンガーズを履いたことで、池田さんも人間が本来持っている機能を生かせるようになってきた。10kmのタイムは51分ほどから47分ほどまで向上。池田さんが40代前半には見えるのも、原始に帰り、人のあるべき姿を取り戻したことと関係しているのかもしれない。
「ファイブフィンガーズに出会わなかったら、もっとクッション性の高いシューズを履こうと考えていたでしょうね」
 しかし、補強をほとんどゼロにしたシューズを履いたら、長年悩まされてきた痛みが消えた。
「真逆の考え方もあるんだなということに気づいた」。例えば、今までの泳ぎ方とまったく違うことを指導されても受け入れられるようになったという。
「自分の考え方に固執しなくなりましたね」。それもまた「原始に帰った人間の姿」なのかもしれない。

一般的なシューズは、裸足系シューズに比べてケガの発生率が約3.5倍にも膨れ上がる。 参考文献:(米軍調査)The United States Army Medical Department Journal 2012年10月~12月号
膝が曲がっている状態でつま先(前足部)で着地する。着地の位置は身体の真下。
通常のシューズは踵着地になりやすい。地面を蹴る力で足首や膝に負担がかかってしまう。
5本指シューズの先駆け、ビブラムのファイブフィンガーズ。ソールは極限まで薄いが、見た目以上に丈夫。「カラバリも含めて100種類以上と充実しています」(ベアフットインク・ジャパン代表取締役 ジェイソン・ウィリアムズ氏) ¥14,490(ビブラム/ベアフットインク・ジャパン TEL:03-3479-3102)

Tsuyoshi Yoshino
日本ベアフット・ランニング協会代表理事
サンディエゴ州立大学修士課程で、人がよろめいた時のバランス修正速度を測定したことをきっかけに、裸足ランニング走法を研究。日本における第一人者として各メディアで活躍中。

Junichi Ikeda
シンクー代表取締役
1964年生まれ。95年の独立以来、起業人として活躍を続け、2005年にCS・ES支援のシンクーを設立。ランニング歴は10年以上。「最初のうちは面白そうな大会にだけ、ぶっつけ本番で出ていた」

Text=山村光春、森本裕美、井上健二、山内宏泰 Photograph=吉場正和、太田隆生、高橋 葉


*本記事の内容は13年4月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい